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給与は適切なのか? ~給与明細のナゾ~

(職組ニュース 平成20年9月号)

文書の目的

福岡大学においては組合と大学が激しく対決する大きな問題は一見した感じでは見当たらず、それが組合活動への関心の低さにもつながっています。これはしあわせな状態といえなくもありませんが本当にそうなのでしょうか。職組ニュースでは何回かにわけて特に給与の問題を解説してゆきます。給与問題は職種によって分断されているうえ、プライバシーにかかわることなのでデータの収集はもちろん公表も困難で、そう簡単に情報共有できません。また構造も複雑・定量的なので、時間をかけて問題の所在をつきとめるのも面倒です。結果としてたとえ問題が存在していたとしても、認識されていない、というのが現状です。今回はデータ不足ではあるものの、一例として今回はしかたなく筆者の給与データを使って解説します(はずかしー!)。 学長交渉においても大学側は「対策をとるほどの問題なし」との立場をくずしませんが、できればいろんな職種のかたが他職種も含めてどんな課題が存在しているのか、どのくらい損をしている可能性があるのかを知っていただければ幸いです。

自分の号俸はどこ?

まず基本データとして給与明細書の表紙をごらんください。左上に「月例」、「賞与」、「特別手当」の欄があり、どこかひとつに「*」が入っているはずです。月例は毎月の給料、賞与は6月,12月のボーナスです。「特別手当」ってのは貰ったことがないのでわかりません、省略。
「月例」の場合、その内訳が明細に書かれているわけですが基本的に「本俸」(基本給)+「手当」(いろいろ)となっています。収入の基本になっているのはやはり「本俸」で、ボーナスも本俸に比例(一年で4.5ヶ月分の本俸額)しますから、いちばんベースになる部分です。本俸は定期昇給によって金額があがってゆきますが、どのようにあがるのかは「俸給表」にかかれているとおり。俸給表は教職員組合が配布している「給与白書」に掲載しているので、そこをみれば来年の自分の給料がいくらになるのか、はわかるはずだ。俸給表の使い方はのちほど説明しますが、まず自分の本俸が俸給表のどこにあるのかをみつけだす必要がある。
筆者の場合、給与明細に明記されている「本俸」は414200円。教育職員俸給表をみると。。。あれ?どこにもない?

号俸の調べ方

実は給与明細にかかれている本俸は、ちょっとした偶然がなければ俸給表にはのっていません。自分の「俸給表」上の給料を調べるには1月の給与明細をごらんください。右下の「通知」の欄に「制度上の本俸」(=俸給表にのっているはずの本俸)と「号俸・級」がかかれています。毎年1月に定期昇給するので(制度上)いったいいくら昇給したのかかかれているわけです。ところが「制度上の本俸」は「実際に毎月もらっている本俸」より少ないはずです。筆者の場合は413400円で800円少ない。ただ413400円なら教育職員俸給表にのっている。
種明かしをすると、毎月の給与明細にかかれているのは平成18年1月時点での「旧本俸」で、「制度上の本俸」は平成18年4月以降の「新本俸」です。平成18年は「公務員給与の構造改革」が実施されました。大きな変更点は本俸が4.8%減ったことです。本学給与もそれに準拠したと称して給与体系が変更されました。ただ福岡大学で起こったことは多少込み入っていて、

  1. 旧本俸から4.8%へらした額を「新本俸」とした体系に移行、
  2. それだけだと生活にこまることもあるので「4.8%へらした額」を「新旧本俸の差額」とよび、当面、補填しつづける、

という措置です。
つまり制度上の俸給表・俸給額は(4.8%ダウンした)新本俸(これが現在の制度上の本俸)に移行したのだが、減らす前との差額も支給し、手取り額はへらないように「配慮した」。いまでも給与明細にかかれているのはだから旧本俸の金額そのものです。この旧本俸はあたらしい俸給表には載っていない、というわけでした。

大学の給与体系変更の影響

以上の「配慮」は一見すると公正なものに見えなくもない。しかしその結果として、2~3年の間、実際の昇給は停止しました(制度上の本俸は上がっていますが)。平成18年からいまにいたるまで手取り額はずっと同じです。それでも「公務員給与に準拠しているのだから」しかたない。公務員給与に準じて上がった時もあったのだし下がる時だってあらーな、上がる時だけ準拠して下がる時は準拠したくないなんてのは潔くない、と思われる人も多いでしょう。
しかしですよ。平成18年度に執行された「公務員給与の構造改革」は、公務員給与を下げる目的を果たすためのものではない。志気を維持し、効率的に働いてもらうため、よく働く人には手当を多く付けることにした。その分、年功序列部分の本俸の割合が減った。簡単にいえば本俸と手当の割合がかわったのに近い。昇給する号俸もよく働いた人には多くできるように細分化した。また給与水準の地域差にその地方の公務員給与をあわせるため、俸給額全体をさげ、地域差に相当する部分は「地域手当」で補填するようにした。だから地域差はあるにせよ、公務員全体の手取り額はおそらく減っていません。
しかしながら福大においては本俸部分が減った、という部分が活用された。職種にもよりますが、(公務員においては)「手当の部分」が増えたことは反映されず、結果として手取り額が減った。 公務員給与改革が目指していた目的は福大においてはまったく実現されず、むしろ志気は下がったといえるでしょう。「リストラ」という用語が日本においては単に首切りを意味するように誤用されつづけたのと同様、福大の給与改革は構造改革の体をなさずに給与カットを意味するだけにおわりました。
給与はシビアな問題ではあるものの、その分析は難しく関心を呼んできませんでした。給与改革の問題一つとっても、上記の解説は簡単なダイジェストにすぎず、本来実現すべきだった方向の検討や悪影響の説明が必要です。他にもさまざまな欺瞞がまかりとおっていますが、説明するのも理解するのも紙幅を要します。しばらくの間、問題をすこしづつ解説していきたいと思います。